会社の大切な資産である商品在庫ですが、滞留が起こり過剰在庫になった場合や、不良在庫が発生した場合には、いずれ在庫の処分を検討する必要があります。在庫を処分するにはいくつかの方法がありますが、廃棄処分を検討するケースも少なくありません。
今回は、在庫を廃棄処分する際にかかるコストや、廃棄時に必要な書類などを解説します。会計処理時の仕訳方法についても説明するので、在庫の廃棄処分を検討中の方はぜひ参考にしてください。
在庫処分には税務上の大きなメリットがある
在庫処分にはさまざまなメリットがありますが、税務上にも見逃せないメリットがあります。在庫を処分してしまえば節税につながるのです。売れる見込みの少ない在庫のために出費がかさむのでは、キャッシュフローに悪影響を及ぼし、場合によっては経営を大きく圧迫しかねません。
在庫処分には、人件費や保管スペースなど管理コストの削減に役立つ一面もあります。これらの事情から、滞留在庫や不良在庫は不用意に抱えず、タイミングを見て処分するのがおすすめです。
不良在庫の処分方法
販売のメドが立たない不良在庫の主な処分方法としては、以下のものが挙げられます。
<不良在庫の処分方法>
・在庫を廃棄する
・セール販売する
・買取業者へ依頼する
それぞれ詳しく説明していきます。
在庫を廃棄する
まずは、在庫を廃棄して処分する方法があります。賞味期限切れや消費期限切れの食品は、廃棄処分を検討するケースが多くなります。また、値引き販売が許されないブランド品も廃棄処分するしかありません。倉庫スペースの問題などから極力迅速に処分しなければならないケースや、在庫が大量すぎる場合にも廃棄になる可能性が上がります。
廃棄に必要な手続きや費用は、廃棄する商品によって異なります。
セール販売する
なるべく現金化しつつ在庫を処分したい場合には、割引セールという形での販売も考えられます。セール方法としては、店舗内や催事場での直接販売の他、インターネットサイトを利用した販売も可能です。ただし頻繁すぎるセールは、ブランドイメージの毀損や顧客の買い控えを招く恐れがあるため、実施には慎重な見極めが必要とされます。
買取業者へ依頼する
不良在庫は、買取業者へ依頼することでも処分可能です。買取業者ごとに得意な商品や独自の販路があるため、うまく利用すれば効率よく在庫を処分できます。廃棄と異なり現金化が可能なため、仕入れなどのコストを回収することでキャッシュフローの悪化防止にもつながります。業者によっては一度に大量に在庫処分が可能な場合も少なくないので、手間なくスムーズに現金化しやすいのもメリットです。
ここからは、廃棄処分にかかるコストについて説明します。廃棄には、それ相応のコストがかかるのが一般的です。一例として、産業廃棄物処理処理業者へ支払う費用の目安や、ゴミの焼却時に発生するCO2排出量を紹介します。
産業廃棄物処理業者へ支払う費用の目安
あくまで目安ですが、たとえば産業廃棄物を処理する場合、廃プラで30~80円/kg、動植物性残さ(動物性残渣)で20~70円/kg程度が相場です。ただし、ゴミの廃棄処分に支払う費用は、ゴミの種類・処理を依頼する業者・地域などによって異なります。
また、産業廃棄物の運搬にも費用がかかりますが、距離や分量によって料金が異なるのが一般的です。たとえば、基本積載量が4立方メートルの2t平ボディもしくはコンテナ車で運搬可能な産業廃棄物の場合、18,000円程度が運搬費用の目安と考えられます。
ちなみに、事業活動によって生じたゴミは、産業廃棄物と一般廃棄物(事業系一般廃棄物)とに大別されます。産業廃棄物は、廃棄物処理法により20種類が定められており、この産業廃棄物に該当しないものをまとめて一般廃棄物として分類するしくみです。
出典:リサイクルハブ「産業廃棄物の処理料金相場」、晴栄運送「産業廃棄物料金表」、東京都環境局「一般廃棄物の概要」
廃棄処分時のCO2排出量
可燃性のゴミを廃棄処分する場合、焼却時にCO2が排出されます。その量の概算としては、ゴミ1トン当たりの焼却につき、およそ380kgのCO2が排出されるといわれています。
なお注意事項として、このデータはプラスチックを燃やした場合に排出されるCO2量となっており、生ごみや紙屑を燃やした際に排出されるCO2は含んでいません。生ごみや紙屑の燃焼時には「もともと空気中から取り込んだCO2を再度放出するだけ」と考えられることから、これらは算定しないことになっています。
出典:名古屋市「Q:ごみ焼却にかかるCO2排出量を教えてください。」
在庫処分時の仕訳方法
在庫を処分したときは、処分方法によって経理上の仕訳方法が異なります。廃棄時、およびセール販売時・買取依頼時には、それぞれ大まかに次のように処理します。
在庫の廃棄時には棚卸廃棄損と棚卸資産で計上
在庫を廃棄した場合には、以下のように計上します。
・借方:棚卸廃棄損の金額
・貸方:棚卸資産の金額
また、棚卸廃棄損の勘定科目は、特別損失の項目に含めます。
ちなみに産業廃棄物処理費用の勘定科目としては、主に次の5つが挙げられます。
・支払手数料
・清掃費
・外注費
・設備維持費
・雑費
なお一般ごみとして処分する場合には、借方が「商品廃棄損」か「雑損失」、貸方が「商品」で計上します。
セール販売時と買取依頼時には通常の販売時と同様に計上
在庫をセール販売した場合、もしくは買取依頼に出した場合には、通常通りに販売したときと同様の仕訳となります。具体的には以下の通りです。
・借方:現金預金の金額(売掛金)
・貸方:売上高の金額
さらに、借方には仕入れ額(売上原価)、貸方には棚卸資産の金額の記帳が必要です。
在庫の廃棄時に必要なもの
在庫を廃棄処分した場合には、さまざまな資料を残す必要があります。これは単に社内の記録上の問題だけでなく、棚卸廃棄損を計上した際に税務調査を受けやすくなる傾向があるためです。税務調査に耐えうるだけの書類を準備しておかないと、税務署の追及に耐えきれないケースも考えられるので注意しましょう。
具体的には、廃棄処分時には次のものが必要になります。
<在庫の廃棄時に必要なもの>
・在庫の廃棄証明書などの書類
・在庫の廃棄理由
それぞれ説明していきます。
在庫の廃棄証明書などの書類
在庫を廃棄処分した場合には、廃棄の事実を証明できるだけの書類一式を揃えておく必要があります。これらの書類に不備があると、税務署が納得してくれない可能性があります。
具体的には、次のような書類が必要です。
・廃棄業者から受領した請求書や証明書
・廃棄をした棚卸資産のリストや明細表
※商品名や日付・金額などがわかるもの
・廃棄時の証拠写真
※廃棄直前(倉庫)や業者への引き渡し時(トラック積載時など)の日付入り商品写真
なお、一般ごみとして処分可能なものを廃棄する際には、以下を明記した記録を残して保管しておきましょう。
・廃棄する日付
・製品の写真
・単価
在庫の廃棄理由
基本的には、在庫の廃棄理由についても用意しておく必要があります。さほど大きな争点にはならない可能性もありますが、税務署の調査を受けた際に戸惑うことなく説明できるよう、しっかり準備しておきましょう。
在庫処分時のポイント
スムーズな在庫処分を実現するためには、いくつかのポイントがあります。そのポイントとしては、以下のことが挙げられます。
<在庫処分時のポイント>
・あらかじめ在庫の廃棄ルールを設定しておく
・在庫を把握しやすい管理体制・保管方法に配慮する
・セールや買取の利用も検討する
具体的に解説していきます。
あらかじめ在庫の廃棄ルールを設定しておく
できれば、あらかじめ在庫の廃棄ルールを社内で設定しておきましょう。ルールを決めておくことで効率的に在庫管理しやすくなるばかりでなく、税務署に対して在庫の廃棄理由も説明しやすくなります。
たとえば、商品をストックしておく期限を設けたり、在庫の保有上限数を決めたりしておき、それに則って在庫を処分します。こうすることで誰でも機械的に処分可能になるため、担当者の勘に頼るといったあいまいで非効率的な対応が不要です。
在庫を把握しやすい管理体制・保管方法に配慮する
在庫を把握しやすい管理体制づくりや保管方法に配慮することも大切です。一口に在庫といっても、商品ごとに回転率や使用期限などが異なります。それぞれの特性を把握しやすいようなシステムづくりに配慮することで、無駄なく効率的な在庫管理が可能です。
たとえば一定の期間出荷のない滞留在庫に対して、段階的に目印を重ねていくなどの工夫をすれば、通常在庫と不動在庫の区別がつきやすく、適正在庫を保ちやすくなります。また、複数の拠点でそれぞれ在庫を管理している企業の場合、在庫の実態が見えにくい欠点があるため、滞留在庫については一ヶ所の倉庫へ集約し現状把握に努めるのも有効です。その他、オンラインの在庫管理システム導入によっても速やかで正確な在庫管理が可能となるため、過剰在庫の抑制につながります。
セールや買取の利用も検討する
在庫処分時、商品を廃棄する前にまずはセール販売や買取の利用を検討しましょう。廃棄すれば、廃棄損を計上できるといった税制上のメリットはもちろんあります。しかし、既にかかっている仕入れや製造コストを考えると、損失は少なくありません。可能な限り現金化して経費を回収できれば、それに越したことはないでしょう。
手間と時間をかけてでも、なるべく高額での現金化を狙うのであれば、セール販売を検討してみましょう。一方、極力手間をかけず、スピーディーに大量の在庫を処分したいのであれば、買取業者への依頼がおすすめです。豊富な販路をもつ買取業者なら、大量ロットをスムーズに処分可能なため、急ぎの現金化が必要な場合にも有効です。
まとめ
今回は、在庫の廃棄処分にかかるコストや、仕訳方法、廃棄時に必要な書類などを紹介しました。在庫をゴミとして捨てるのには、それなりのコストがかかるのが一般的です。仕入れや製造にかかったコストを考えると、さらなる出費はできれば避けたいというのが本音ではないでしょうか。